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■  ポンと村おこし  第104話「カブトムシ」               ■
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「むかーっ!」
「コンちゃん、働いてっ!」
「何故わらわが働かねばならんのじゃっ!」
「いいから働くんですよっ!」
「うわーん」
 さっきからコンちゃん、泣きごとばっかりなの。
 日曜日でお客さんが多くて大変なんですが……
「ポンちゃん、またお客であります」
「シロちゃんは空いた席を片付けて、コンちゃんは注文を取るっ!」
「了解であります」
「ポンから命令されるなど……」
 コンちゃん、まだ文句言ってます。
「じゃ、おそば、運ぶ? ねえ? 重いよ?」
「うう……」
illustration はなさか爺
 コンちゃん、しぶしぶ注文を取りに行きました。
 そうそう、今日のわたし達はパン屋の娘じゃないんですよ。
 ぽんた王国のおそば屋さんの娘なの。
 毎週日曜日は家族連れのお客が「ニンジャ屋敷」目当てでやって来るらしいの。
 で、ニンジャ屋敷はポン太・ポン吉の当番。
 おそば屋さんが長老だけじゃ回らないので、わたし達がヘルプしてるんです。
 パン屋さんはほっといて大丈夫かですって?
 パン屋さんは店長さんとミコちゃん、レッドとみどりでやってるから大丈夫。
 わたし、厨房の長老の所に行きます。
「はい、ポンちゃん、ごぼう天とエビ天と丸天」
「えっと、5番でしたね」
「ポンちゃんは前にもやってもらったから、安心できます」
「シロちゃんとコンちゃんも頑張ってますよ」
「コンちゃんは微妙ですね」
「長老、ズケズケ言いますね」
「あれでキビキビ働いてくれたら、いい娘なんですけどね」
「今の娘はそんなもんですよ……」
 わたし、言っておいてから、
「コンちゃん、ミコちゃんに負けず劣らず平家の落ち武者世代のはず」
「美人は使い物にならないんでしょうかね?」
「長老……それではわたしは美人ではないと?」
「早くおそば、持って行ってください」
 で、ですね、パン屋さんとおそば屋さん……
 正直言うとおそば屋さんの方が忙しいです。
 お客が次から次に来るのもあるけど……
 きっと「ニンジャ屋敷」がお隣だからですよ。
 お客さんが来るペースがパン屋さんとダンチなの!
「コンちゃん、ちょっといいですか?」
 お! めずらしく長老がコンちゃんを呼んでます。
「何なのじゃ!」
「老人ホームに配達に……」
「行くっ!」
 コンちゃん、しっぽ振りまくり。
 ラップされたドンブリを受け取ろうとしています。
 わたし、そんな女キツネのしっぽをつかんで、
「長老、なにコンちゃんに配達なんかさせるんですかっ!」
「こ、これ、ポン、しっぽをつかむでないっ!」
「この女キツネは逃げる気満々じゃないですかっ!」
「む、わらわが逃げると言うかのっ!」
「しっぽを見ればわかるんですっ!」
「神を信じぬのかっ!」
「逃げますよね?」
「逃げぬ!」
「絶対逃げるっ!」
「にーげーぬー!」
 わたし達が言い合っている間に、長老はシロちゃんに渡しちゃいました。
 行ってしまうシロちゃんを見て、コンちゃん暗黒オーラを背負って、
「ポン、おぬし、わらわが抜け出すチャンスをつぶしおったな」
「ほーら、逃げる気だった」
「ゆるさーんっ!」
 もう、コンちゃん、本当に働く気ゼロなんだから。
 わたし、長老に目をやります。
 すぐに長老、ツケノートを出して、
「コンちゃん、真面目にやってください、卑弥呼さまに言いますよ」
 真っ青になるツケの貯めっぷり。
 コンちゃん、しっぽがしゅんとなっちゃいました。
「わらわ、注文を取りに行くのじゃ」
 なんだかちょっとかわいそうかな。
 でもでも、ツケを貯めるのがいけないんです。

 さーて、夕日が真っ赤、閉店時間。
「はい、ポンちゃんもコンちゃんも、シロちゃんもありがとうございました」
 長老、わたし達の前に四角いセイロを出してくれます。
 クンクン、おいしそうなニオイです。
「なんですか、長老、おそばじゃないです」
「ふふ、ポン吉が捕まえてきたんですよ」
 って、コンちゃん、もう蓋を開けてます。
「うなぎ〜」
 目が少女漫画になってるの。
 わたしとシロちゃん、ニオイで美味しいのはわかるけど……
「シロちゃん、食べた事ある?」
「本官もテレビで見ただけであります」
 でもでも、コンちゃんの食べっぷりを見ていたら美味しいの確実です。
 一口……ほっぺも落ちる美味しさです。言葉もありません。
「おなか空いた〜」
 隣でニンジャ屋敷をやっていたポン太ポン吉もやって来ます。
 お豆腐屋さんのおじいちゃん・おばあちゃんも一緒なの。
 パン屋さんのメンバーもやって来ました。
 長老、みんなの前にセイロを配りながら、
「今日は手伝っていただいてありがとうございました」
 みんな、うなぎをパクパク食べてるの。
 わたし、食べ終わっちゃったからお茶を配りましょう。
 そうそう、うなぎ、ポン吉が捕ってきたって言ってました。
 ポン吉にお茶を出しながら、
「はい、ポン吉、お茶」
「ポン姉、サンキュー」
「ポン吉、うなぎってどんなのです?」
「魚だぜ、今度一緒に捕りに行く?」
「うん、連れてって……魚なら釣り?」
「罠をしかけるぜ」
 ふふ、うなぎ、おいしかったから、楽しみです。
 でもでも、どんな魚なんでしょうね。
「はい、ポン太も一杯どーぞ」
「ポン姉、ありがとう」
「あの……ニンジャ屋敷、忙しかったです?」
「うん……ポン姉、ちょっと」
「なんですか?」
 ちょっとシリアスな顔のポン太。
 どうしたんでしょ?
「今日のお店なんですけど……」
「?」
「売り切れてばっかりなんです」
「いいじゃないですか……店長さん、パン屋さんはどうでした?」
 わたしが聞くと、店長さん、箸を止めて、
「全部は売れてないなぁ」
「ほら、ポン太、全部売れるのっていい事ですよ」
 わたし、完売はいいって思ったけど、ポン太の表情は晴れません。
「ダメなんですか?」
「今日、子供がですね……」
「はぁ」
「売り場の棚に何もないのを見て、ちょっとシュンとしてたんですよ」
「完売したら、なにもないですもんね」
「子供がちょっとかわいそうかな……って」
 って、すごい勢いで影が動きます。
 ポン太、そんな影に捕まっちゃいました。
「きゃーん、なんていい子なのーっ!」
 ミコちゃんです、ポン太を抱きしめて、ほっぺすりすり。
「ポン太は何かお店で売る物が欲しい……ですよね」
「子供が多いから、おもちゃとかがいいかなって」
「ふむ〜」
 わたし、お店を見回します。
 いました、配達人です。
「ちょっとちょっと、配達人さんっ!」
「何、ポンちゃん」
「ポン太が売り物のおもちゃ、欲しいそうです」
 配達人、やって来てポン太の前に座ります。
「前にも相談受けたんだよ〜」
「あ、もう相談してるんですね」
 配達人、ちょっと難しそうな顔で、
「一番はお金なんだけどさー」
「まけてあげてよー」
「ポンちゃん、ポン太の肩持つね」
「だって、頑張ってるし」
「ぽんた王国は前から付き合いあるからなんだけど……」
 配達人が言うのに、みんな注目します。
 聞いてないのはコンちゃんくらい、モリモリ食べてる最中なの。
「藁ぶき屋根のお店でさ、既製品売るってのもどーかなって思うんだ」
「わかりません」
「うちで扱ってるおもちゃってさ、プラスチックのおもちゃとか」
「駄菓子屋さんで売ってるみたいな」
「うん」
「子供、喜びそうですよ」
「でもな〜」
 ミコちゃん、ポン太を抱きしめたまま、
「木で作ったおもちゃなら、老人ホームで作ってくれないかしら?」
 一段落したコンちゃん、ほっぺにごはん粒つけて、
「ミコのアイデア、よいが爺婆はたくさんは無理なのじゃ」
「そうねえ」
 わたし、シロちゃんを見ます。
「え……何故本官を見るであります?」
「意見が出てないの、シロちゃんくらいかなって」
「はぁ……本官に考えろと……」
 シロちゃん、ちょっと視線が泳いでから、
「花屋の娘に聞いてみてはどうでありますか」
「え……花屋さん?」
「であります」
 途端に聞いていた配達人もポンと手を打ちます。
「あそこ、果物も作ってるから、分けてもらえるよ」
「本官もそう思ったであります」
 でも、ポン太は不安そう。
「そんなに予算はないんですよ」
「ポン太、わたしも一緒に行くから……話だけでもしてみようよ」
 わたし、ポン太と一緒に花屋さんに行く事になりました。

「こんにちは〜」
 花屋さんに到着です。
 花屋さんって言っても、家があるだけなんですね。
 ドアが開いて、花屋の娘さん。
「あ、ポンちゃん……この子は弟さん?」
 花屋の娘さん、ポン太を見て首を傾げて、
「もうちょっと小さくて、キツネさんで……えっと、レッドちゃん」
「この子はポン太、村の……ぽんた王国って知ってます?」
「あ、知ってる、新しくなったお豆腐屋さん」
 わたし達がそんな事を言っていると、ポン太はぺこり。
「はじめまして、ポン太です」
「はい、はじめまして……で、うちに何か用?」
 花屋の娘、ポン太と握手。
 ポン太「ぽんた王国」の説明をして、
「そこで売る物を探しているんです」
「へぇ……お豆腐だけじゃなくて、ニンジャ屋敷もやってるんだ……今度私も行くね」
 花屋の娘さん、ニコニコ顔で、
「うちの農園案内するけど……どうかしら」
 わたし、そんな花屋の娘の腕を捕まえます。
「まけてくださいっ!」
「ポンちゃんストレート……」
「助けると思って!」
 花屋の娘さん、わたしを見て、ポン太を見ます。
「お店で売る物が欲しいのね」
「よろしくおねがいします」
「いいわよ……えっと、ポン太くん」
「はい……」
「じゃ、お代はニンジャ屋敷タダとか、お食事タダで」
 むー、それって高いのか安いのか……
 花屋の娘さんに連れられて畑の隅。
 娘さん、かごを持ってやって来ました。
「これはお土産にあげるわ」
 桃です、スイカもあります!
 ポン太もわたしも大喜び。
 花屋の娘さん、さらに、
「お店は休みに日だけやってるなら、その時卸せばいいの?」
「はい……でも、こんなにいいんですか?」
「よーく見て」
「?」
 わたしもポン太も、もらった桃やスイカを見ます。
 なにかな?
「あ!」
 先に声を上げたのはポン太。
「どうしたんです?」
「ポン姉、これは規格外ってヤツです」
「規格外?」
 花屋の娘さん、腕組みして頷きながら、
「綱取興業はそこまでうるさくないけど……一応見てくれの悪いのは外してるの」
「見てくれ、悪いですか?」
 わたし、びっくりです。
 全然おかしくないのに。
「全部、ちょっと小さいの」
「そ、そうなんだ……」
 ポン太、心配そうな顔で、
「あの綱取興業さんに卸しているんですよね?」
「そうよ」
「これでも受け取ってくれるでしょう?」
「そうね、買ってくれるわ」
「本当に……いいんですか?」
「ゴメン!」
 花屋の娘、いきなり手を合わせませす。
 ここまで見せつけて「今のナシ」とか言わないで!
「ポン太くんにあげるのはいいんだけど……」
「?」
「そんなにたくさんは卸せないのよ……果物は『ついで』だから」
 それはわたしもわかりました。
「いつも出せないって事ですよね?」
「そう……ごめんなさい」
 花屋の娘さん、畑を見回して、
「野菜も出せるけど、きっと『ずっと』は無理」
「はぁ……」
 ポン太、ちょっと残念そうな顔。
 まぁ、娘さん一人でやってる農園だから、たくさんは無理でしょ。
 ポン太が落ち込み、花屋の娘が愛想笑いしている時……
 わたしの野良嗅覚に「なにか」を感じました。
 甘い、腐った、森のニオイ!
 花屋の娘さんの足元の「桶」からするんです。
「あの、その桶はなんですか?」
「あ、これ? これは……」
 わたしとポン太が近付くと、娘さんが蓋を開けてくれます。
 な、中には黒いツヤツヤの虫がびっしり!
「う、うわぁ!」
 Gじゃないんです、カブトムシ。
 でも……桶の中に「うじゃ」っているの。
 モゾモゾうごめいているのを見ると背筋がゾゾってしちゃいます。
「桃に着くのよね……ここじゃ害虫よ」
 ポン太の顔がパァっと明るくなりました。
「コレ、コレを全部くださいっ!」
「「え?」」
 わたしと娘さん、はもっちゃいました。

 そして日曜日……
 おそば屋さんに集まったみんな。
 今日は花屋の娘さんもいるんです。
 ポン太とポン吉以外の表情はこわばってるの。
 ポン太、嬉しそうに、
「カブトムシで10万円っ!」
「やったー!」
 ポン吉ぴょんぴょん跳ねてます。
 店長さんも花屋の娘さんも固まってます。
「スゴ……」
 二人とも同じ言葉をつぶやいてフリーズ。
 わたしだってびっくりです。


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NCP5(2013)
illustration はなさか爺
HP:花なんて坂ない
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