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■  ポンと村おこし  第103話「お空が飛びたくて」            ■
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 わたしとコンちゃん、お昼のお茶でゆっくりしているの。
 お客さんはいませんね。
 そして駐車場にも、車はないの。
 そんなガランとした駐車場にレッドがいます。
「ねぇねぇ、コンちゃん」
「何じゃ、ポン」
「レッド、さっきからなにやってると思います?」
「うん、レッドかの?」
 お茶も終わって眠りそうになっていたコンちゃん。
 わたしの言葉にコンちゃん、レッドの方を見ます。
「あれは……何をやっておるのかの?」
「だから、それを聞いてるんです」
「ふむ」
 レッド、駐車場でカラスと対峙してるんです。
 さっきから、じっとカラスを見つめているレッド。
 カラスは3羽いて、並んでレッドを見つめています。
 レッドが一歩前に出ると、カラスは一歩後退。
 カラスが一歩前に出ると、レッドが一歩バックするの。
「はないちもんめ……かの?」
「レッド一人ですよ」
「うむ〜」
「違うに決まってるでしょ!」
「レッドは手にパンを持っておらんかの」
「あ……あれはおやつのメロンパン」
 そう、さっき一緒にお茶をした時のです。
 レッド、メロンパンをちぎって投げました。
 カラスの1羽がそれをキャッチ。
 レッドは何度か投げますけど……えさをあげてるだけ?
「捕まえたいようじゃの」
 カラスが落ちたのをつついているのに、レッドにじり寄るの。
 でも、カラスもすぐに顔をあげてレッドをにらみ返し。
「レッドじゃ捕まえられないんじゃないでしょうか」
「仔キツネゆえ、のう」
 と、2羽がパンを食べているのにレッド接近。
 今度はカラス、顔を上げません。
 でもでも、1羽がレッドの背後。
 2羽を捕まえようと近いているレッドのしっぽをつつきます。
 ああ、レッド、しっぽを見てあわててます。
 今度は前の2羽が足元を攻めるの。
 逃げ出すレッドを追う3羽カラス。
「やられてますね」
「まぁ、そんなものじゃろう」
「助けに行きますか」
「男の子ゆえ、ほっといてよくないかの」
「見てられません」
「まぁ、みっともないのう」
 わたしがお店を出ようとすると、綱取興業の車がやって来ました。
 カラス、退散、レッドわたしに飛びつきます。
「わーん」
「レッド、弱々です」
「パンあげたのに〜」
「はいはい」
 って、車から配達人が降りてきました。
「レッド、カラスにやられてたけど」
「はいたつにん〜」
「どうしたの?」
「それは〜」
 わたしが聞きたかったの、配達人が代わりに聞いてくれました。
 レッド、わたしから配達人に飛び移るとしがみついて、
「カラスはとびますよ」
「そーだね」
「たのしそう」
「そーかな?」
 わたし、レッドの泣き顔をハンカチで拭いてあげながら、
「どうしたかったんですか?」
「3びきいたら、とべませぬか?」
 わたしと配達人、ポカンとします。
「ねぇねぇ、レッド、カラスをつかまえて飛びたかったの?」
「まんがでありまする〜」
「ああ、アニメなんかでありそうな展開ですね〜」
「そらをとびたいですよ」
 わたし達、お店に入ります。
 配達人にお茶を出しながら、
「だからってカラスはないでしょ」
「なにゆえ?」
「レッドはここに来る前、どーでしたか?」
「?」
 そーです、レッドがまだ赤毛の仔キツネだった頃の話です。
 3クールの31話の出来事なの。
「レッド、カラスに襲われてたでしょ!」
「そうでしたっけ?」
「もう、平和ボケしてませんか」
「さぁ」
 配達人、お茶を一口してから、
「カラスじゃなくて、空、飛べないの?」
 配達人、明らかにコンちゃんを見ているの。
 コンちゃんは配達人用に出したメロンパンをつまみ食いしながら、
「何故わらわを見るのじゃ」
 配達人、今度はわたしを見てテレパシーが来ました。
『ねぇねぇ、ポンちゃん』
『なんですか? テレパシーで?』
『コンちゃん神さまで飛べるよね』
『し、知ってるんですか?』
『うん、飛んでるところ、見た事あるし』
『配達人……目、節穴じゃないんですね』
『怒るよ』
『まぁ……コンちゃん、確かに飛べます、一緒に飛んだし』
 わたしと配達人が目をやると……
 レッドと一緒になってメロンパンを食べているコンちゃんが、
『何故わらわを見るのじゃ』
『ねぇねぇ、コンちゃん、一緒に飛んであげたら?』
『面倒なのじゃ』
『えー!』
『それに……』
 コンちゃん、メロンパンをモリモリ食べてるレッドを見ながら、
『よいか、二人とも、よーく考えるのじゃ』
 わたしと配達人、生唾飲んで頷くの。
『わらわが術でレッドと飛ぶ』
 そうです、それで解決です。
『レッドは何度も飛べと言い出すであろう』
 でしょうね。
『面倒くさいではないか』
 そ、それだけか……コンちゃんらしい。
『ポン、あきれておるの、いいかの』
『なに、コンちゃん』
『術を使うと消耗するのじゃ』
『普段なにもやってなーい!』
『わらわの寿命が縮むのじゃ』
『充分長生きしてるよね……ってか神さまなんだよね』
『ポン、神さまの言う事は聞くものじゃ』
『面倒くさがり屋』
『ふーんじゃ』
 コンちゃんは術を使ってくれそうにないです。
 レッドは次のメロンパンを見つめて、
「ポン姉〜」
「はいはい」
「とべませぬか?」
「はぁ……」
 困りました。
 ついつい配達人を見ちゃいます。
「なにか手はないですか?」
「うーん……」
 配達人が考えていると、レッドが飛びつきました。
「はいたつにーん!」
「はいはい、なに?」
「あそんでー!」
「はいはい、キャッチボールでいい?」
 レッド、配達人に抱きついてニコニコしてます。
 遊んでくれる人には誰にでもニコニコしますかね。
 配達人、急に真剣な顔になりました。
「レッドって軽いね〜」
「ですかな?」
「どれどれ」
「はわわ」
 配達人、レッドを両手で「高いたかい」。
「わーい」
「うーん、レッド、軽いな〜」
「まいにちたくさんたべてま〜す」
「そうなの?」
 配達人がわたしを見るから、
「まぁ、レッド、毎日食べてるけど」
 レッド、「高いたかい」がよかったのがはしゃいでます。
「仔キツネだから、そんなもんじゃないですか」
「ふーん」
 配達人、レッドをわたしに押しつけると……
 今度はわたしとレッドを一緒に抱っこなの。
「きゃっ!」
「大人しくして」
「エッチな事したら殺しますよ」
「ポンちゃんにしないよ」
 ちっ!
 肘です、肘、一発お見舞いしちゃうんだから。
 配達人、苦笑いしながらわたしとレッドを抱っこします。
「うわ、ポンちゃんと一緒でも軽い〜」
「わたしもタヌキですからね」
 配達人、ニコニコしながら、
「胸がないと軽いかな」
「コロス!」
 もう、さっきよりも強く肘です肘。
 配達人、わたし達を下ろすと、
「よーし、レッド、空を飛びたい?」
「はーい」
「じゃ、飛ばしてあげるよ」
「ほんとう!」
illustration はなさか爺
 もう、レッドの瞳に★が輝いてます。
 配達人、レッドの手を引いてお店を出ます。
 わたしとコンちゃんも一緒になって駐車場。
 配達人、レッドに敬礼して、
「レッド君、空を飛ぶ準備はできましたか?」
「はーい」
 レッドも敬礼して返します。
 配達人、そんなレッドを両手で持ち上げて、わたしの方を見て、
「ポンちゃんとコンちゃん、カウントダウン!」
 わたし達、頷きます。
「ごー、よん、さん、にー、いちっ!」
「発射っ!」
 配達人の声と同時にレッドの体が宙を舞います。
 って、配達人が投げただけですけどね。
 放物線を描いて落ちて来るレッド。
 配達人がキャッチします。
 わたしとコンちゃんも駆け寄るの。
 レッド、配達人の胸で目を丸くしてます。
「レッド、大丈夫ですか?」
「はわわ」
「こわくなかったですか?」
「ちょ、ちょーたのしー!」
 すぐに配達人の腕をゆさぶって、
「もっとやってー、もっとやってー!」
 ああ、さっきのコンちゃんの予言の通りです。
 レッドせがみまくり。
 コンちゃんが嫌がるの、わかりますね。
「しょうがないな〜」
 配達人「しょうがない」って言ってるけどニコニコ。
 余裕でレッドを何度も放り投げます。
「ほーれ、ポン、わらわの言ったとおりであろう」
「コンちゃんがやってあげればいいのに」
「消耗するのじゃ」
「神さまだよね」
「ふーん」
「それに……」
「何じゃ」
「ポイント稼ぐチャンスだったかもよ」
「!」
「レッドポイント、チャージのチャンスだったかも」
 でも、コンちゃんすぐに、
「レッドはわらわが好きゆえ、それほど必死にポイント収集せんでもよいのじゃ」
「そ、そーだね」
 配達人、何度も投げ上げてるけど疲れないかな?
 ちょっと心配したけど、普段から仕事で荷物運び、レッドくらいお茶の子みたい。
「配達人さん、大丈夫ですか?」
「うーん、レッド、軽いよね」
「ちょっと見直しましたよ」
「何を見直したんだか」
「ちょっと男らしいかな〜って」
「俺、男だもん」
「目、細いくせに」
「言ったなー!」
 って、配達人、わたしをじっと見て、
「ポンちゃんでも出来ないかな?」
「え?」
「レッド、軽いし」
 そんな事を言いながら、わたしにレッドを抱かせます。
 レッド、わたしを見て、
「こんどはポン姉ですかな?」
「わたしに出来るかな……」
 配達人、わたしの背中を押しながら、
「いいからいいから、いくよ、5・4・3・2・1」
 有無を言わさずカウントダウン。
 レッドポイントを貯めるため、わたしもがんばり……
「発射っ!」
「!!」
 レッドを放り投げる……激痛!
 思わず振り向いたら……配達人がしっぽを雑巾しぼり!
「なにすんですかーっ!」
 もう、本気チョップなんだから。
 でも、配達人、痛がるどころか呆然としてるの。
「こ、これっ! ポンっ!」
 コンちゃんも大きな声。
「コンちゃん、わかってくれますかっ! しっぽを雑巾しぼりしたんですよっ!」
「そんなのどーでもよいのじゃっ!」
「え……わたしの心配じゃないんですか?」
 コンちゃん、わたしのチョップをつかまえて、
「ぽん、おぬし、力加減を知らんのかのっ!」
「え?」
 そりゃ、力いっぱいチョップしたけど……
「配達人死んでませんよ」
「レッドじゃ、レッド!」
「は?」
 カウントダウンで投げましたけど……それが?
 配達人、空を指差していますね。
「レッド……」
 配達人の指差す先……空……えっと、なにも見えません!
「え、えっと、わたし、レッドをどーしちゃったんでしょ?」
 周りを見回してみても、レッド、いないの。
 どこに行ったんでしょ?
 そんなわたしに配達人とコンちゃんが空を指差します。
「これ、ポン、おぬしやりすぎじゃ!」
「コンちゃん、どーして空を指差すんです?」
「よく見るのじゃ!」
 わたし、コンちゃんの指に顔を寄せて……空を見ます。
 キラリ……昼間なのに★ひとつ。
 一番星かな〜
「レッド、星になってしまったではないか!」
「えーっ!」
 ど、どこまで飛んで行っちゃったんですかっ!
「あ、落ちてきたよ」
 配達人、両手を広げてるの。
 わたしとコンちゃんの目の前でレッドをナイスキャッチ。
 配達人の胸で、レッド、ぽかんとしています。
「レッドーっ! 大丈夫っ!」
「はわわ……ポン姉」
「大丈夫ですかっ!」
 さっきまでと、ちょっと様子が違います。
「こ、こわかった?」
 わたしの言葉に、レッド、考え込んでいます。
 しばらく視線が泳いでから、
「うーん」
 レッド、唸るばかり。
 コンちゃんが、
「これ、レッド、何が見えたかの?」
「ちきゅうはあおいボールですかな?」
 ど、どこまで飛んで行ったか……知りたくもないですええ!


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NCP5(2013)
illustration はなさか爺
HP:花なんて坂ない
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