■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■  ポンと村おこし  第102話「シロちゃんの弱点」            ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 夢の中ですね。
 え、なんで夢ってわかるかって?
 目の前に店長さんがいるんだけど……
 わたしを熱っぽい目で見つめているの。
「ポンちゃん、瞳を閉じて」
 夢ってわかっていても、ドキドキしますね。
 せっかくですから、夢にのっちゃいましょう。
 肩に重ねられた店長さんの手、感じます。
 近付いて来る店長さん、まぶたを閉じていたってわかるの。
 触れる唇とくちびる。
「チュウチュウ」

「チュウチュウ」
「……」
 目覚めるとレッドがわたしにキスの最中。
 レッドの横にはみどりもいますね。
 みどりはわたしをじっと見つめているの。
「チュウチュウ」
「レッド、朝のキッスはいらないですよ」
「おめざめですかな?」
「普通に起こしてください」
「えんりょせずとも」
「怒ってるんですよ」
 みどり、腕組みして、
「アンタ、早く起きなさいよっ!」
「みどり……みどりもレッドにキスされた?」
「うん……それがどーしたって言うのよっ!」
「なんだかレッドにキスされると、キスが軽く感じませんか?」
「朝のあいさつに軽いもなにもないでしょっ!」
 わたし、さっさと布団を畳んで押入れに片づけます。
 そんなわたしのしっぽをレッドがモフモフ。
 レッドには後で頭グリグリですね。
 と、みどりが服を引っ張ってます。
 なにかな?
「ちょっとアンタ!」
「なに、みどり?」
「ミコちゃんが呼んでるわよ」
「は〜い」
 みどりに引っ張られて台所のミコちゃんのもとへ。
「ミコちゃん、おはよ〜」
「あ、ポンちゃん、おはよう」
「なに、用事?」
 ミコちゃん、わたしを見て、それから一緒のレッドとみどりを見ます。
「みどりちゃんとレッドちゃんにはこれ」
 手渡すアンパン……昨日の残りです。
 ミコちゃん手渡しながら、
「『二人』で祠の掃除、お願いね」
「は〜い」
「そんなの、朝飯前よっ!」
 レッドとみどり、アンパンを持って出て行きました。
 わたしとミコちゃんだけになります。
 ミコちゃん、わたしを見て、
「たまおちゃんとシロちゃんを起こして来てくれない?」
「うん……質問!」
「何、ポンちゃん?」
「レッドとみどりじゃダメだったの?」
「行けばわかるわよ、はい、これ」
「?」
 ミコちゃんがくれたのは一枚のお札。
 それを持ってたまおちゃん達の寝ている部屋へ。
 って、ふすま、開きません。
 さっき渡されたお札、これがミソでしょ。
 きっと封印されてるんでしょうね。
 ペタっと貼ったら、ふすまが光りました。
 今度は力を入れなくても横にすべります。
「あー!」
 裸で寝ているシロちゃん……別に裸で寝ているんじゃなくて、パジャマ半分脱がされてるんです。
 たまおちゃん、そんなシロちゃんに抱きついて、首筋にむしゃぶりついています。
 わたし、ふたりをゆすって起こします。
「ほらー、二人とも、起きてー、朝ー!」
 二人とも低血圧?
 目をこすりながらモソモソ起きだしました。
 し、しかし朝から見せつけられました。
 たまおちゃんの趣味の世界……わたしは理解できません。

 朝の配達はたまおちゃんと一緒。
 バスケットを片手に老人ホームに向かいます。
「たまおちゃん、わたし、女の子同士でどーかと思うよ」
「ポンちゃんは子供だからわかんないんです」
「そうかなー」
「そうです」
「レッドやみどりもいるから、自粛したら?」
 たまおちゃん、怒った目でわたしを見て、
「ミコお姉さまやコンお姉さまが一度でも床を一緒してくれたら」
「ないんじゃないの?」
「ポンちゃんはコンお姉さまと一緒に寝ているんですよね」
 たまおちゃん、わたしを抱きしめて顔を寄せてきます。
 一瞬キスされるんじゃないかとドキドキしましたが……
 たまおちゃん、わたしのニオイをかいでいます。
「コンお姉さまのニオイがしますっ!」
「まとわりつくなー!」
「ポンちゃん、うらやましいっ!」
「どこが?」
「コンお姉さまと一緒に寝れるなんて!」
「わたし、コンちゃんにあんな事しないもん」
「なんでしないんですか?」
「女の子同士ですよ、どーして?」
 な、なんか噛み合ってないですね。
 わたしは「百合」な世界、さっぱりです。
「たまおちゃん、シロちゃんがいるからいいじゃないですか!」
 そーです、今日は抱き合って寝ていました。
「シロちゃん、正直かなり高得点ですよ、美人さんです」
「……」
「たまおちゃん、なにが不満なんですか?」
「シロちゃんは……最初は私も『やった』って思ったんです」
 なにが「やった」かは、知りたくもないですね。
「でも、毎晩一緒していて、気付いたんです」
「?」
「シロちゃんはマグロなんです!」

 たまおちゃんとは神社の前でお別れです。
 そこからは一人……って思っていたら、シロちゃんと遭遇です。
「あ、シロちゃん」
「ポンちゃん、配達でありますか」
「うん、シロちゃんは朝のパトロール?」
「そうであります……学校まで同行するであります」
「パトロールってお散歩だよね」
 途端にシロちゃん、銃を抜きます。
「聞こえなかったであります、何て言ったでありますか?」
「う、撃たないで」
「では、一緒に行くであります」
 このミニスカポリスは撃ちたがりなのが難ですね〜
「ねぇねぇ、さっきたまおちゃんと一緒だったんだけど」
「たまおちゃん、はいであります」
「たまおちゃんが……シロちゃんはマグロって言ってたよ」
「はあ……それがどうしたでありますか?」
「シロちゃんマグロなんだ」
「マグロとは……マグロでありますよね」
「えーっと、わかる?」
「本官も大人ですから、わかるであります」
 シロちゃん、うんざりした顔で、
「本官、女であります、たまおちゃんに絡まれても嬉しくないであります」
「だよねー、わたしもわかんないよ」
「それをマグロと言われても、どうしようもないであります」
「そうなんだ」
「本官、一人で眠りたいであります」
 シロちゃん、考える顔になって、
「本官が犬だった頃をポンちゃんは知ってるであります」
「うん……パンをあげた事、あったよね」
「黒ネコを覚えているでありますか?」
「タマちゃん」
「まとわりつかれるのは、正直苦手であります」
「そうなんだ」
「本官、まとわりつかれるのであれば……店長さんがいいであります」
 む!
 この雌犬は危険です、店長さんを狙ってるんです。
 普段は全然その気がなさそうなのに、たまに本音をもらすのがコワイ!

「そんな事があるんだ」
 学校で千代ちゃんにバスケットを渡します。
 千代ちゃんが、
「ポンちゃんもシロちゃんも一人で寝ないんだ」
「本官、一人で寝たいであります」
「わたしはどーでもいいかな」
「一人の方がゆっくりできるであります」
「わたしは……すぐ寝ちゃうから、わかんないや」
 千代ちゃん、わたしとシロちゃんの言葉を聞きながらクスクス笑ってます。
「何がおかしいでありますか?」
「千代ちゃん、なんで笑うの!」
「ううん……シロちゃんは交番の犬だったんだよね」
「そうであります」
「私がゴハンあげたの、覚えてる?」
「覚えているであります」
「シロちゃん、あの頃もあんまり触られるの、好きじゃなかったような……」
 千代ちゃん、今度はわたしをしげしげ……
「ポンちゃんはすぐに寝ちゃうんだ」
「うん、わたしはすぐに寝ちゃうかな」
「そう言えば……家にゴハンを食べに来てた時も、寝ちゃってたかも」
 うーん、野良をやってた時の記憶は……
 その時はまだ子供だったし……
 本当にそんな事あったっけ……
「千代ちゃん、本当にほんとう?」
「うん、ゴハン食べたらすぐに軒下で寝てたよ」
「うわー……わたしらしいと言えばそうかも」
「それに……」
 千代ちゃん、わたしにそっと手を差し出します。
 なにかな?
「ちょっと……しゃがんで、頭を下げて」
「うん……なになに?」
「いいから、いいから」
 わたしがしゃがむと、千代ちゃん頭をナデナデ。
 うわ、なんだかすごい気持ちいい、うれしい、ホッとします。
 ついついニヤニヤしちゃうところです。
「どう、気持ちいい?」
「うん、うん……思い出した、野良の頃、なでられてました」
「ポンちゃんのお母さんタヌキは触れなかったけど、ポンちゃんは無防備だったよ」
「そうなんですか〜」
 ふふ、だって頭ナデナデ、本当に気持ちいいもん。
 でも、急に寒気がしました。
 わたし、真顔になって一歩引き。
「千代ちゃん……これだけじゃないですよね?」
「え?」
「なんだか嫌な事もあったような気がします」
「うーん」
 千代ちゃん、悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「いつもこの後、しっぽをモフモフしてたかも」
「あー、きっとそれですね」
 そっちは嫌な思い出ですね。
 千代ちゃん、シロちゃんをじっと見つめて、
「ちょっと、ちょっと!」
「何でありますか?」
 シロちゃん、千代ちゃんに顔を近付けます。
 わたしにしたように、千代ちゃん、シロちゃんの頭をナデナデ。
「交番にえさをあげに行ってた時、すごく喜んでいたような……」
 ナデナデ……シロちゃんの目の色が変わるのがわかりました。
 瞳孔が開ききってませんか?
「ねぇ、千代ちゃん、シロちゃん嫌がってなかった?」
「うーん、交番で犬だった時はナデナデはOKだったような……」
「固まっちゃいましたよ、壊れてませんか?」
「うーん、その……」
 シロちゃん、頭をナデナデされたところで動きが止まってます。
 でも、すぐに目に魂が戻ってきました。
「きゃーん!」
 頬を朱に染めて、千代ちゃんを抱きしめます。
「はふはふ!」
 千代ちゃんのほっぺにキスしまくりなシロちゃん。
 あまりの変わりようにわたしが固まっちゃいました。
 千代ちゃん、一瞬はびっくりしたものの、
「そうそう、撫でられるの、すごい好きで……」
「そ、そうだったんだ」
「はふはふ!」
 シロちゃん、千代ちゃんにキスしまくってます。
 でも、急にキスをやめると、千代ちゃんを置いて駆け出しました。
「すごいキスされちゃった……でも、シロちゃんどこに行ったと思う?」
「千代ちゃん、わたしに聞かれても……」
 わたし、そこまで言って、さっきシロちゃんが言ってたのを思い出しました。
「き、きっと店長さんの所ですっ!」
 さっき「まとわりつかれるのであれば……店長さん」って言ってたの。
 わたしもすぐに後を追います。
 店長さんの貞操の危機ですよ!
 お店に戻ってみると、店先ではコンちゃんが呆然として崩れ落ちています。
 柱にしがみついて、ミコちゃんは居間の方を見ているの。
「ミコちゃん、シロちゃん来なかった?」
「今、来た、コンちゃんがいきなりやられて……」
「店長さんが危ないっ!」
「今、やられているところ」
「ミコちゃん止めるところですっ!」
「だ、だって、シロちゃんのあんなところ、初めて見たし」
「バカーっ!」
 わたし、居間に突入です。
 ソファの上に横になっている店長さん。
 その上にシロちゃんがおおい被さっているの。
「しししシロちゃんっ!」
「はふはふ!」
「やめやめっ!」
「はふはふ!」
 シロちゃん、店長さんにキスしてむしゃぶりついています。
 もう許せないっ!
「シロちゃん、わたしの店長さんに……」
 止めようと腕をつかんだら、シロちゃんの怒った顔がこっちを見てるの。
「ガブっ!」
 もう、容赦なしでいきなり「ガブっ!」。
 わたしが手を放したら、かみつくのをやめてくれたけど……
「ウーッ!」
 怒ってます、もう完璧に犬に戻っちゃってませんか。
 噛まれた手の痛みよりも、シロちゃんの怒っているのが脅威です。
「はふはふ!」
 あ、また店長さんにむしゃぶりついています。
「やめやめっ!」
 店長さんが言ってもやめませんね……もはや本能の赴くまま?
「ポンちゃん助けてっ!」
 店長さんの叫び……わたしもそうしたいところです。
 って、わたしの背中をトントン。
 見ればミコちゃんが「打ち出の小槌」を渡してくれました。
「シロちゃん覚悟っ!」
 久しぶりの打ち出の小槌、この距離なら外したりしないんだから。
 クリティカルヒット、★3つのダメージ。
 シロちゃん、店長さんの上に崩れ落ちました。
 目を回して、頭上でひよこがダンスしてるの。
 店長さんの救出、成功です。

 シロちゃんの暴走、誰もおとがめなしでした。
 頭なでなで……シロちゃんにはNGかも。
 気持ちいいんですけどね、頭なでなで。
 でも、暴走されちゃ困りますもんね。
 わたしが朝の準備をしていると、またしてもミコちゃん。
「ポンちゃん、たまおちゃん達を起こしてきて」
「はーい」
 わたし、お札を貰ってたまおちゃん達の寝ている部屋へ。
 封印を解いてふすまを開けると……すごい事に!
 たまおちゃんとシロちゃん、素っ裸!
「ちょっ……どーしたんですかっ!」
 この間はたまおちゃんだけだったのに、今日はシロちゃんもすっぽんぽん。
 それにこの乱れっぷりは……
 シロちゃんはスヤスヤ寝息をたてています。
 でも、たまおちゃんはレイプ後みたい。
 目が、瞳孔が、開ききってるの。
「たまおちゃん、起きて、死なないで!」
 ゆすったら、すぐに瞳に魂もどりました。よかった〜
「ポ、ポンちゃん……」
「どうしたんですかっ!」
「う、うん……」
 たまおちゃん、寝ているシロちゃんを見て、
「シロちゃん、頭を撫でたら発情するって聞いたから撫でたの」
「はぁ!」
「そしたら攻められちゃって、攻め落とされちゃった」
 たまおちゃん、モジモジして「ポッ」なんてなってます。
「すごかった」
illustration はなさか爺
 わたしの知らない世界みたいです。
 知りたくもないかな〜


pmh102 for web(pmh102.txt/htm)
pmh102 for web(pmh102.jpg)
NCP5(2013)
illustration はなさか爺
HP:花なんて坂ない
(pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=2034140)

(C)2008,2013 KAS/SHK
(C)2013 はなさか爺